サライ(Vol.19 No.23)
小学館
『サライ』が<続・落語入門>と銘打って、また落語の特集を組んでいる。今回も、附録としてCDが付いていて、小三治の「千早振る」「うどん屋」、そして圓窓の「寿限無」が収録されているのだが、小三治の口演が絶品だ。「千早振る」は現在CDでは市販されていないのではなかろうか。また、「うどん屋」はキングから市販されているが収録日時が別で、味わいも違う。また、この二席は、さきにSONYから発売されたDVD全集にも収録されていないという。
「千早振る」は、平成5年4月10日の放送のものだそうだが、何といっても活力がある。笑いも弾む笑いである。昨今の小三治の高座、タップリととった“間”とかいうものが持て囃されているが、それは、ちょうど晩年のベームがモーツァルトの交響曲をウィーンフィルで振った時に言われた評のようでもある。中には、指揮者の意を呈して楽団が演奏しているという風なものまであった。しかし、それは“指揮”とはもはや言えないのではなかろうか。ところが、この「千早振る」は、ベートーヴェンの交響曲4番を振ったクライバーなのだ。実に素晴らしい!
「うどん屋」は、キングから出ているものがより緻密だとは思うが、リアリティという点では、今回の昭和57年12月23日放送の「うどん屋」に格段のものがあると思う。酔っ払いがミー坊から“さてこの度は”と言われたと語る場面は、まさに慟哭だ。この場面は、私も好きな場面で、どの盤を聴いても涙するのだが、この盤を聴いたときには、涙がとめどなく溢れてきた。一編の人情噺である。
750円の定価、このCD一枚で十二分に元が取れ、多額のオツリがくる。
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