東横落語会13
金原亭馬生=小学館 「酢豆腐」「花見の仇討」
馬生の新しい演目が聴けるだけでも嬉しいのに、これがまた「酢豆腐」ときてるんだから、その喜びも倍加します。馬生の発する“コンツワ”“イツフク”“モチリン”なんてのを耳にすると、もう堪りません。
馬生の「酢豆腐」は、兄貴の家に皆が集まって前日から飲んでいるという設定になっているんですね。そして、翌日、酒を出すのも兄貴が嫁さんに言いつけて用意します。しかし、そのカネがあるか問答の中でも、最高に可笑しかったのが、熊さんとの問答。
“熊さん、お前どうだい、ゼニあるかい?”
“面白くねーな、なぜって、人の懐あてにしてんだ、そういう時は、熊さん、オアシはありますか、ってなぜ聞かないんだ!”
”成程、そいつはリクツだ。熊さん、オアシはありますか?”
”いえ、わたしはオアシはありません”
勿論、客席も大爆笑!
志ん朝の「酢豆腐」と聴き比べてみると、それぞれに志ん朝らしさ、馬生らしさが顕われている。志ん朝らしさ、馬生らしさって、なんだと言われると、ちょっと答えに窮するけれど、まぁ、なんとなく解ってはもらえると思うんですが…。あえていえば、虚実皮膜のあわいにある志ん朝と、戯画化された中に真実を垣間見せる馬生とでもいおうか。
この『東横落語会 ホール落語のすべて』は、資料の主要ホール落語会の演者演目一覧を見ているだけでも楽しい。たとえば、『よってたかって古今亭志ん朝』の巻末にもあるように、東横落語会に志ん朝は早くも朝太の名で昭和33年(第16回)には出ているのに、馬生が東横落語会に初めて出たのは、昭和36年(第31回)になってから。このブランクはなんなんだろうと思ったり(私の見落としがあったらゴメンナサイ)。
しかし、愚痴になるけれど、やはり、『十代目金原亭馬生―噺と酒と江戸の粋』にも、『よってたかって古今亭志ん朝』のような資料をつけて欲しかったですね。
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