青い空、白い雲、しゅーっという落語
堀井憲一郎=双葉社
この本は、“落語の”本です。しかも、とても面白い落語の本です。ここ何年間雨後の筍のように出版された有象無象の本が束になっても敵わない面白さです。そして、月に二、三回程度の寄席通いを一年間続けた人には、その面白さは、さらに倍加するでしょう。
例えば、小のぶのことを書いた『芝浦の公民館の独演会は客四人』の項など、まったくもって痺れます。私も、小のぶの名前が気になり、末広亭に珍しく出るというので足を運んだことがありました。しかし、独演会に行く勇気がありませんでした。“ああ!もし行っていたら、こんな場面に遭遇していたのか!”と思うと恐ろしくもあり残念でもあります。
そしてまた、『上野鈴本、歌だけ、悪夢の小三治独演会』の項。“小三治の独演会は、いろいろ何度も行ってるし、小三治の落語は何度もライブで聞いている。でも、上野鈴本の独演会は、何やら聖地という感じがして是非行きたかったのだ”という気持ち。とても判ります。私もそう思いましたが、チケットが手に入りませんでした。で、苦労して手に入れたその上野鈴本での独演会が、歌だけの会だというので、堀井さんは我慢できずに仲入前に席を立ったのです。最後までいた“手下のマルオカ”さんによると仲入の時に、後ろにいた上品な御婦人が“ほんと「寝床」ねぇ”と溜息まじりに言ったそうです。小三治にも容赦のない批評をしているのでこの本はまた面白いのです。
ただ、『赤坂TBSロビーで談春が稽古をつける』は、実に後味の悪いものでした。感想を述べる気にもなりません。
この本、後半には、十人の噺家へのインタビューがあるのですが、それも面白く読みました。扇辰が前座の頃、楽屋で聞いた志ん朝と小三治の会話がまた物凄い!ホント、同じ空気を吸ったというのは素晴らしい財産ですよね。
この本の後に、大友浩さんの『噺家ライバル物語』も期待して読んだのだが、全くの期待はずれ。引用が全体の半分あるんじゃないのかと思うほどに多い! それもその多くは落語が好きな人だったら既に読んでいるような本からの引用ばかり。そして、わざわざライバルと対立させて構成する意味を感じなかった。さらに、著者の以前の著書で志ん朝の脱糞事件に言及しなかったことへの言い訳みたいなことを書いているが、端無くもそのことが証明するように、全体として綺麗ごとに終始しているように感じられ、堀井さんのように著者の肌触りが感じられなかった。
しかし、これから刊行される予定の三冊の堀井さんの本、早く読みたいなぁ!
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