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2008.05.06

志ん朝と上方

岡本和明=アスペクト
この著者(というか編者というか、あるいは企画者というか)の『よってたかって古今亭志ん朝』『まわりまわって古今亭志ん朝』、そしてこの本を読んでの極めて大雑把な感想は、志ん朝という人は孤独な人だったんだな、ということです。志ん朝に接した人は誰一人として志ん朝を悪く言う人はいない。そして、自分が受けた志ん朝の言葉を、また自分が志ん朝と共に共有した時間を、自分だけが受けた他の者は共有できなかった有難い経験だと思う。しかし、志ん朝は、己が発する言葉が己が為す行為が己と接する人にどのような影響を及ぼすか自覚するがために、どんな場所でもどんな人にでも、同様な平等な接し方をしたのではないだろうか。そうやって形成された周囲の志ん朝像を損ねる行為は慎むことになっただろう。そうすると、やはり自然に孤独になっていったんではなかろうか。例えば、喜多八が、金馬が、泥酔した志ん朝を語ってはいるが、そういうことは本当に稀だったんではないだろうか(いや、あるいはこれもまた皆に平等な行為だったかもしれない)。私が想うに、唯一、志ん朝の素の姿を観たのは、志ん朝の側で長いこと前座的仕事をやったという志ん上だったのではないだろうか。そういう意味でも、志ん上の話を聞いてみたい。
こうは書いたけれど、全体としては可笑しくって哀しい本だ。内海英華が聴いた、“というようなわけで…”という言葉(詳しくは本書を読んでください)も、可笑しくって、私も使わせてもらおうと思った次第。
この本の最後に「志ん朝とカミガタ」という項があるのだが、カミガタというのは、髪型を上方とかけてのシャレで、志ん朝がよく通ったという幼馴染の床屋さんの想い出話。前にも言ったことだが、志ん朝を語れば志ん生を語ることになる。この床屋は、先代の時から志ん生も通っていて、なんと、あの志ん生の髪型は、坊主ではなく角刈りだったそうだ!真実とすれば、地動説に勝るとも劣らない驚天動地の事実だ。
アスペクトは、相変わらず校正が杜撰。なぜ文春から書名も統一して三部作として出版しなかったのだろうか?

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コメント

志ん上師の取材はしてありますが、現在のところ使用できるのは100分の1くらいしかありません。「よってたかって古今亭志ん朝」の中にほんの少し、他の人間の言葉をかりて登場してもらっております。公開できるのは、随分たってからでしょうね。もしかしたら、全て未公開のままにしておくかもしれません。
校正の件、今後気をつけます。
尚、現在私が興味を持って取材しているのは“爆笑王”と言われた咄家達です。三代目三遊亭歌笑、柳亭痴楽、林家三平の三人。ことに、痴楽師匠は浅草の介護院に行き2時間程取材したテープが残っています。私が取材してから一年余り経って新宿末広で最後の高座をつとめ、それから数ヶ月で師匠は亡くなっていますので、尚更、本にしたいという思いが強いですね。

投稿: okamoto | 2008.05.14 17:41

岡本さん、著者自らの御丁寧なコメント、恐縮し、かつ感謝しております。有難うございます。
そうですか、やはり、ひな太郎師匠への取材もかなりの量のものがあるのですね。叶わないとは思いながらも、そのような御話を伺うと、ますます聴きたくなります。いつの日か読めることを鶴首して待っております。
また、現在、取材されているという“爆笑王”も、我々も表面的に知っているだけなので、是非、岡本さんの取材を通じて浮かび上がってくる“姿”を上梓されることを切望しています。
せっかくですので、一読者としての希望を述べさせていただくと、志ん生や志ん朝を語る馬生ではなく、馬生そのものを語る御本を上梓していただければ、こんな幸せなことはありません。
今後の益々の御活躍をお祈りしております。

投稿: 龍→okamoto | 2008.05.14 21:51

7月下旬頃に文藝春秋から「目白・柏木・黒門町 内儀さんだけはしくじるな!」というタイトルの本を出します。目白とは五代目柳家小さん、柏木は六代目三遊亭円生、黒門町は八代目桂文楽(こんなことは先刻ご承知だと思います)。今回はそれぞれの師匠と弟子ではなく、お内儀さんよ弟子の不思議で面白くて、何となく泣かせる(この部分は少ないですが)関係を一冊の本にしてみました。このような切り口の落語の本は今まで無かったのでは?
先日、歌笑の取材のテープ起しをしていましたが、歌笑の落語の底辺にあったのは、<どん底から這い上がりたい>という気持ちだったようです。あの顔ですから小学生のころは虐められ、家族からも距離をおかれていたという少年時代を過ごしたようです。家が裕福だったにもかかわらず、小学校(尋常小学校ですが)しか行かなかったのも、そういった所に原因の一端があったようです。歌笑伝(小説の形をとりますが)は来年の春(3~5月頃)に出せるようにと思っております。

投稿: okamoto | 2008.05.19 17:44

『赤めだか』のところでも書きましたが、先日、新刊情報を検索していましたら、『人生、成り行き 談志一代記』と岡本さんの御本がまもなく刊行されることを知りました。ただ、この本は著者が八朝師となっているのですが、目白、柏木、黒門町のお内儀さんの思い出を八朝師が語るのでしょうか。それとも、それぞれのお弟子さんと八朝師が対談するという形をとるのでしょうか。
『歌笑伝』、楽しみです。せいぜい知っているのは、米軍のジープにはねられて死んだということぐらいですから。映画『おかしな奴』も随分以前に観ていますが、あれがどこまで描かれていたか、もう忘れてしまいました。

投稿: 龍→okamoto | 2008.05.19 23:34

「目白」は馬風、さん吉、小燕枝、さん八、小里の各師匠、
「柏木」は川柳、生之助、円龍の各師匠、「黒門町」は文楽、左楽、小満ん、二三蔵の各師匠が座談の形でお内儀さんの思い出を語っております。取材、原稿を書いてて一番可笑しかったのは「黒門町」。とに角、図抜けて可笑しい。馬風師匠が黒門町のお内儀さんのことを「苦味走ってるね」と言った言葉には妙な説得力がありました。あと、これはお内儀さんの話ではないのですが、「目白の蛍踊り」は有名だそうですね。どんな踊りかは、本書を読んでのお楽しみです。

投稿: okamoto | 2008.05.20 11:10

貴重な情報、有難うございました。

投稿: 龍→okamoto | 2008.05.20 23:11

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