野口雨情・西條八十の世界
近藤志げる=オーマガトキ
寄席(といっても、新宿末広亭が殆どだが)で時折に聴く近藤志げるの唄はなんともいえない魅力があって、涙を誘われる。その志げるがCDを出したというので、早くから聴きたいと思っていたが、ようやく聴くことができた。実は、ネット上で部分的に視聴したことがあるのだが、なんとなく物足らないものを感じていた。そして、CD全体を聴いてみて、その感を益々強くした。寄席で聴く志げるの唄にはルサンチマンがあり、パフォーマンスには毒気があるのだが、このCDに聴く唄は、すっかり漂白されてしまっている。声も生硬で、妙に歯切れがよくって、突き抜けた声。CDを出した喜びだけが出ているような感じだ。
また、パフォーマンスにしても、寄席でよく聴くのは、「シャボン玉」の“屋根まで飛んだ”という歌詞に対して、客席の少年が“おじちゃん、この唄は台風の歌かい?”と訊いたというものがあるのだが、このCDでは、「七つの子」の“かわいい七つの子”という歌詞に対して、やはり客席の少年が“おじちゃん、カラスは七羽も雛を産まないよ”と指摘した、ということになっている。同じような状況なのだが、寄席では、この少年を毒づいている。しかし、CDでは、少年に対してなんとも温和な志げるなのだ。
寄席での、“森繁久彌が今日、午後5時30分にに皆に見守られながら、…夕食を食べた”という冒頭のツカミ、客席へのやや高圧的な態度、叙情性とルサンチマンとがタップリの唄は、本当に魅力的なのだが。
近藤志げるは新宿末広亭に限る、というところか。
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