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2007.12.15

鈴本演芸場十二月中席

◆会場=鈴本演芸場
◆日時=2007年12月15日(土)17:20開演
  △三遊亭歌る美 「初天神」
  ◇鈴々舎風車 「看板のピン」  
  ◇ダーク広和 奇術
  ◇柳亭市馬 「厄払い」
  ◇林家しん平 「クリスマスの贈り物」
  ◇柳家小袁治 「蔵前駕籠」
  ◇鏡仙三郎社中 太神楽
  ◇五街道雲助 「宿屋の富」
 仲入
  ◇柳家小里ん 「言訳座頭」
  ◇林家正楽 紙切り
  ◇入船亭扇遊 「芝浜」

この日の高座は実に充実していた。正直な所、当初、落語協会の本日の寄席を見た段階では、地味な名前が並んでいるなという感想を持ったが、それは私の認識不足でした。玄人好みのする噺家が名を連ねていると言うべきでした。どれも素晴らしい高座だったが、特筆すべきは、雲助と扇遊だった。どちらも<極私的名演十撰>にランク入りさせたい。
歌る美、二回目だが、すっかりファンになりました。ちょっと巨人の上原に似た感じで、その独特の雰囲気。子供を演じるときに、両手を前に出して指を絡ませるのだが、その様子も独特。そして、泣くときにも、顔に両手をあてて泣くのだが、両手で三角形を作って泣くのもなんとなく可笑しい。髪もピンと跳ねてるところもあり、着物の後ろの足の部分はすっかり皺がよるほどに、一生懸命に立ち働いている様子。応援します。
風車、先月の鈴本の項でも聴いていたのだが、うっかりして名前を記すのを忘れていました。先月の「動物園」も良かったが、この日の「看板のピン」もまた良かった。本人はルパン三世と自称していたが、老親分を演じるときには、吉田義男を髣髴させ、とても雰囲気が出ていた。フラもあり、実力もあり、なかなか有望な噺家と思います。
ダーク広和は初めてなのだが、とてもいいですね。そのホンワカとしたムードが客席にも良く受けていて、一体となった客席からは、感嘆の声、拍手が盛んに起こっていた。和みます。むやみに客に手伝いをさせる奇術家が多いが、自分の芸だけで、客席をこんな空気にさせるダーク広和、只者ではありません。
市馬、さすがの高座。与太郎はこうでなくっちゃ。以前にも書いたが、扇辰の与太郎は観ていて心苦しくなってくる。今日は、いつもの、エー、ネエーなどの口癖もあまり聞かれずすっきりと聴くことができた。
しん平。サンタクロースとトナカイに扮した泥棒の噺。
小袁治、マクラを聴いていて、「蜘蛛駕籠」かなとも思ったが、「蔵前駕籠」だった。この噺も聴く機会が少ないようにも思うが。
仙三郎、仙三、仙花。今日も五階茶碗が無事終わってホッとした表情の仙花を観ることができて幸せです。
雲助の「宿屋の富」は、初めて聴いた。滑稽噺が、落とし噺が落語の、古今亭の本流だと自負する雲助の真髄を聴くことができました。人情噺での素晴らしさは既に体験しているのだが、雲助の滑稽噺の素晴らしさを十全には感得できないでいた。この日の「宿屋の富」は、それを払拭する大変に見事な高座。泊り客の大法螺も実に楽しく、富籤場での喧騒も私自身もその場に居るかの様。僭越な物言いかとも思うが、雲助自身も楽しそうに演じていたように見受けたのだが。あまり雲助ばかり<極私的名演十撰>に入れても仕様がないので泣く泣く「豊志賀」を外します。
小里ん、この日の小里んも凄かった!小里んを正当に認識していませんでした。凄みのある座頭には圧倒させられました。
正楽。相合傘、討ち入り、ホワイトクリスマス、浦和レッズ。浦和レッズという注文には珍しく鋏が止まっていた。しかし、その出来の見事なこと。いつもに増しての盛大な拍手に送られて高座を降りた。
扇遊は好きな噺家なのだが、聴く機会がなかなかないのだ。しかし、今月号の『東京かわら版』の佐藤友美さんによる巻頭インタビュー(いつもながら素晴らしいインタビュー!)を読んでこれは是非聴かねばならないと思ったのだが、実に素晴らしい高座でした。今席が初演だとはとても信じられないよく練りこまれた高座。浜で煙草を吸いながら見る雲の色の描写もあることから、基本的には三木助、扇橋と受け継がれたものだろうか(恥ずかしながら扇橋の「芝浜」はいまだ聴いたことはないのだけれど。そして、勿論、三木助もCDでしか聴いたことはないのだが)?スッキリとして、無理、無駄のない端正な敢ていえば、インタビューを読んで髣髴させられる扇遊らしい仕上がりの「芝浜」と感じました。これまでに聴いた「芝浜」と違うなと思ったのは、オカミさんが盛んに魚勝に“お前さんは腕のいい魚屋だ”と言い、またそう思わせるところ。起こされて、盤台、包丁、草鞋の心配をする前に、これまでの得意先にはもう他の魚屋が入っていると言う魚勝にオカミさんは、“また取り返す腕もないのかい”と言うのだ。と、ここまで書いて『古典落語 正蔵・三木助集』を読んでみると、この部分もちゃんとあるのですね(ユニバーサルのCDには入っていなかったが…)。とすると、三木助の型を踏襲してはいるのだろうが、もう違和感なく扇遊独自のものと感じられた。先月も馬石の「芝浜」を聴いて、素晴らしく思ったものだが、扇遊の「芝浜」は、やはり一日の長がある。今日も滂沱の涙を流したのだが、近くの席の方々も男女の別なくハンカチを手にされていた。この素晴らしい「芝浜」を聴いてますます「子別れ」も聴きたくなった。インタビューによると、なかなか演る機会のない「子別れ」のようだが、佐藤友美さんあたりがプロデュースしてその機会を作ってもらえないだろうか。切望します。

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