よってたかって古今亭志ん朝
志ん朝一門=文藝春秋
志ん朝のエピソードを、郡正明、古今亭志ん五、古今亭志ん橋、古今亭八朝、古今亭志ん輔、桂才賀、古今亭志ん馬、古今亭朝太によってたかって語られた一書。であるけれども、現在の各々の置かれてあるスタンスによって多少の発言の多寡、強弱があるのは、やはり、否めないであろうか。八朝、志ん橋の発言のウェイトが大きかったように思う。また、この二人の発言が面白くもあったのだが。
各人の入門時のエピソードも面白いのだが、真打になってからも、長いこと前座仕事をやっていたという志ん上(桂ひな太郎)の話も聞いてみたかった。
志ん朝が、前座時代、楽屋で大きなイビキをかいていたとか、弟子に稽古をつけるときは自分も一度さらってやったとか、分裂騒動で談志の襟首をつかんで詰め寄ったとか、いろいろ、当方にとっては初めての楽しく興味のある話ばかり。
志ん朝の本だけれども、志ん朝を語れば志ん生をも語ることになる。そのなかの一つ、志ん橋が志ん生から「道灌」の稽古をつけてもらって、第一声の『えー、お笑いを一席申し上げます』ばかりを繰り返させられるところ。
「いいか、お前はただ『えー、お笑いを一席申し上げます』って言ってるだろう」
「ええ。だって、師匠がそう言えっていうから……」
「そうじやないの。噺家が最初に『えー』って言うのは、<この後、この人は何て言うんだろう?>って客に思わせるための『えー』なんだ。お前は、ただ『お笑いを一席』って言ってるだけなんだよ」
その瞬間、目から鱗が落ちたって感じだったね。でも、どう言えばいいのかは分からない。それから毎日一回は、
「えー、お笑いを一席」
ってやらされたね。
素晴らしい話です。
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